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ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 145

闇夜の調査&お留守番_3  妄想省家政婦mayoさん

釜山の金海(キンヘ)国際空港からリムジンバスで市内へ移動..
空港も市内も早い時間なのに国際色豊かに人がごった返していた..
釜山で国際映画祭が開催されたせいもあるのだろう...
ヨンジュンに何とかフライトチケットを回してくれないかと昨日連絡した..

「オッケー##ヨンジュンにまぁかっせてぇ~~#..」

いつもの明るい返事だったので不安はなかったが
ヨンジュンはなんとその日のうちにチケットを持ってきてくれた..ちぇみの仕込みがいいのか..
ちぇみと3人で調査の報告と資料作成を終えるとヨンジュンはちぇみに背を向け..
^_^...っと無言で笑いチケットを渡してくれた..
ま..ちぇみとテソンにはもう行き先はバレバレだろうけどっ..


テソン父の姓は柳(ユ)..
テソンは母方に改姓したので「柳泰成」から今の「李泰成(イ・テソン)」になった..

普段通名で通している私の本名も一緒に住む3人とピョートル..オルシンしか知らない..
テスは祭りの後..ピョートルが手続きした店と家の登記簿を見て知った..
ちぇみは祭の最中..私を調査し..オルシンの旧知と解り..私に確認した..
テソンには祭が終わった朝..両親の事を話した時に私から言った..

テスは屋上で踊るときにたまにぽろっと口から出る....
ちぇみは二度だけ..耳元で言った..★☆メールの甘ったるい会話は互いに本名でやりとりをする..
テソンはxxxの時だけ呼ぶ..
3人は私に普段の言い慣れた名しか使わない..その方が気楽でいいからだ..


テソンの父親は昔ソウルで極小さな貿易会社をやっていた..
何を扱っていた会社なのか祭の終わった朝にテソンに聞いた時..

「僕..小さかったからあまり覚えてない..でも..」
「でも?」
「大きくない家なのにパンダヂがやたら多かった..それも古いやつ..」
「パンダジ..」
「ぅん..あとソバン..何個もあったのはなんとなく覚えてる..」

それから口をつぐんだテソンに私は何も聞かなかった..

バンダヂとは韓国語で「半開」の意..
李朝家具の特徴的な形式で..前面の上部半分が扉で手前に引けば開くようになっている..
開くと中は広い空間だけで衣服の収納や本..花器の収納にも使われていた..
ソバンとは..四角や円形..六角形などの足の付いたお盆のことだ..

居所が釜山と解ってもテソン父が何故会社をたたんだのか..
それとも倒産したのか..はっきりした経緯はまだわからないでいた.


釜山港近くの南浦洞(ナムホドン)には韓服通りと呼ばれる通りがある..
李朝朝鮮時代..貴族と平民の生地の種類は国法で決められていた..
朝鮮戦争の避難民を対象に生活の糧として家庭で個人的に韓服を作り売ったのに始まり..以後..韓服の店が少しずつ集まり始めた..今では約30軒の専門店が軒を並べる..

テソンが母親のことを話してくれたとき..

「洋裁の他に韓服の仕立てをしてた..どっちも評判が良かったんだよ..」と言った..

その後釜山が故郷だと聞いた後...納得出来た..頷ける話だと思った....
おそらくテソン母は様々な種類の生地..手の込んだ刺繍の生地...
上衣と下衣との幾通りもの色の組み合わせに慣れ親しんできたに違いなく..
生来の手先の器用さで仕立ての仕事ができたのだろう..

古いパンダヂ=李朝家具..
釜山..国際貿易港..家具の輸出入の運搬は船..そしてテソン母の故郷..
ばらけていたキーワードが私の頭の中でひとつづつ繋がっていった..
釜山で李朝家具を扱っている..と当たりを付けた..
ソウルで李朝家具を扱う知り合い聞いたりして釜山の一軒の店にたどり着いた..
店の住所と住民票の住所が同じだったのがラッキーだった..

リムジンバスは1時間弱で釜山駅に着き..南北に走る地下鉄1号線に乗り西面(ソミョン)で降りた..
駅から歩いて15分ほどのちょっとした住宅街にテソン父の店「伽耶琴(カヤグム)」はあった..

さほど大きくない建物は平屋のT型で横のどちらかが住居だろう..
ウィンドゥにはブラインドが降りている..
ドアにぶら下がっているプレートに「11:00~19:00」と刻印があった..
まだ1時間以上ある..
ふぅぅ..とため息をついて駅まで戻った..

駅まで戻る途中..陶磁器の扱っている店に入った..
幻の青色といわれる高麗青磁の翡色の壺..
透き通るような白磁の花器はとても一般人が買える\ではない..本物か??
それでも舐めるように眺めていると奥から髭をたくわえたじじいがにこにこと出て来た..
風貌はジュンホ妻のソニョン父..に似ている..
顔を見て..もう一度陶磁器を見た..顔も陶磁器も胡散臭い...っと思った..^^;;...

じじいにあれやこれやと陶磁器を存分に褒め称え..機嫌の良くなったところで
「伽耶琴」の主人の事をそれとなく聞き出した..じじいはべらべら喋った..

店を構えて随分たつこと..
宣伝もしないのに客筋がいいこと..
そしてひとりで暮らしていること...
温厚な性格で..教会に通っていること..

じじいは最後にちとやらしい笑いのあと..情報をくれた...

「おんなの出入りはないようだよ..」

あっそ..ありがとう...一番聞きたかった情報だぜぃ...
インチキ情報じゃねぇだろうな..っと思った..

「これはアンタに似てるネェ~~...安くしとくよぉ?..どぉ?...」

と純白の小さな壺を撫でながらじじいが近づく..
左右の手のひらを前に押し出しながら..丁重にお断りをして店を出た...
歩きながら顔面運動をした..愛想笑いは疲れる...

じじいの言った情報の真意はやはり会ってみないとわからないか...
ふぅぅ..とまた息をついて駅へ急いだ..

地下鉄に乗り..山の手の東菜(トンネ)で降り「韓知喜韓服(ハンチヒハンボク)」へ寄った..
釜山に来ると必ず寄る店の1つで..これも目的のひとつ..でもあったか..^^;;..

デザイナーの韓知喜が営む..韓知喜韓服は伝統的なチマ・チョゴリの韓服はもちろん..
現代的なセンスを加味した韓服を工房でひとつひとつ手作りしている..
生地も厳選していて刺繍がとても綺麗なのだ..
絹100%となると値段も張る..そうそう上下では揃えられない..

あのオルシンじ~じは韓服で訪問しないとへそを曲げ..機嫌がよろしくない..
買って頂けるのかと思えばそうでもない..ま,,解っているからねだりもしないが..

「稼いで自分の褒美に買うもんじゃ..のぅ...そうせんと大事にせんじゃろ??..ンカッカッカ#.」

っと理屈をこね..面倒な仕事をやらせる..くそじ~じだが憎めない...

何点かの商品を見た後..
乳白色の生地で..袖と襟に刺繍入ったチョゴリとチマが葡萄色..オッコルムがこげ茶のセットに決めた..
オリジナルの韓服を見て赤のハイネックで裾に刺繍のあるチョゴリに燻銀のチマの上下も購入した..
ちとイタイ出費である..
 
まっ..いいっか..じ~じからのマージンを見越して...と自分に理由をつけたが..

『ったぐ..お前なぁ..何しに行ったんだっ#..莫迦かっ#』

ちぇみのぐぅー★は..ひとつ落ちるだろう...
はるみの用に赤色刺繍入りと燻銀の同じ生地を1mづつ切ってもらい一緒に配送を頼んだ..
店を出て地下鉄で西面に戻った..

「伽耶琴」のウィンドゥのブラインドは上がっていた..
ウィンドゥには「前開横長箪笥」と呼ばれる男家具が飾ってあった..
欅の木目が無駄のない端正なデザインと相まって格調高さを表している..

『吉と出るか..凶と出るか..』

店の前で大きく深呼吸をして店のドアを開けた..


焦り 6 ぴかろん

「…どうして離婚を?」
「…あのさ…最新作、『スウィート・ブラッド』って言ったけど その後に 、映画を撮ったんだよね…」
「え?」
「…スタッフが持ってきた案でね、人間は追い詰められたらどうなるかってテーマ…」
「…」
「それ…僕が出てるんだ…僕が主役…」
「監督が?」
「ん…。で、妻も出てる…」
「…夫婦共演?」
「掴みはオッケーだろ?それだけで…」
「…はい…」
「で、ウォニにも出てもらった…。ウォニは何本か僕の映画のエキストラ出演してたんだけど、親しくなったのはその作品を撮り終えてからだ」
「出来上がってるんですか?」
「お蔵入りだけど」
「何で?!」
「お義父さんがOK出してくれなかった…」
「…」
「酷いからね…妻を罵る場面が…。本心を言った…」
「…え…」
「僕は作品の中で、妻への疑惑や不満をぶつけた。妻は犯人役のウォニに身動きできない状態に括りつけられてる役だった…。ビアニストだから演技なんかできないさ…だからセリフも言わなくていいようにさるぐつわかませて、僕とウォニが主に演技してた」
「…」
「僕のはアドリブが多かった。僕も演技に関しては素人みたいなもんだから、本当に追い詰められた状況を作って少人数で撮ったんだ。
ウォニはうまかったよぉ~お蔵入りは可哀想だったな…。妻の浮気を責めるシーンでは、セリフに気持ちを込めて思いっきり罵ってやった…。責めるだけじゃなくて僕自身の浮気も暴露したけどさ…事実を織り交ぜてね…」
「…。どうしてそんな事…」
「…息苦しくて仕方なかったんだろうね…ずっと我慢してきた事を吐き出したかったんだろうね…僕が一方的に僕の不満を彼女に伝えるカタチになった…」
「…愛し合ってたんじゃないの?」
「うん…愛し合ってたわけじゃない…でも…可愛くて美しくて自慢の妻ではあった…。彼女も僕と生活していれば、仕事も恋も充実させる事ができた…」
「…恋って…」
「ああ…彼女ね、ずっと前から妻子持ちのピアニストとデキてたの…結婚前から…」
「…」
「知ってたけど結婚した…。望まれたからさ…嫌って言えなくて…。ほら…善人だから…」

そういうの…善人って言わないよ…監督…

「彼女を痛めつけて傷つけた…演技だけど…。そんな映像見せられたらお義父さん黙っちゃいないでしょ?娘が可哀想だってなるよね?」
「…」
「でもホントに気持ちよかったぁ…。彼女は僕に恐怖を感じたって…それで別居するっていうからさ…離婚届渡しといた…。出すも出さないも好きにしてって…。ま、今後の僕の作品如何でお義父さんが僕を切るか、そのままずるずる紙の上の結婚生活続けるか…ってとこなんだ」
「…このままいくと、後ろ盾なくなっちゃうじゃん…」
「そ」
「…じゃ…どうすんの?!」
「どうすればいいか解んなくて休んでるの」
「…ふぅん…」

監督の微笑みがほんの少しだけ柔らかくなった

「じゃそのお蔵入りのフィルムは、久しぶりにノって撮ったもの?」
「…撮ったっていうか…吐き出したっていうか…」
「…なんでそれまで撮りたいと思うものを撮らなかったんですか?」
「…撮りたいと思うものを見つけ出す時間がなかった…それに周りに迷惑かけたくなかったの…僕って善人でしょ?ごり押しってしたくなくてさ…。
あれは唯一ごり押しした作品だったんだ。お義父さんに却下されたけど…思い切ってやってよかった。でも…疲れた…すっごく…。
やっぱり僕のやりたい事って認められないんだと思うとがっくりきちゃってさ…何を撮っていいのか、どうしたらいいのかますます解んなくなっちゃった…。BHCに来ないかって誘われた時、やっと『少し休みたい』って言えた…で、今に至る…」
「…じゃ…ここに来てよかったですね…今ラクチンでしょ?」
「ん…かなり…」
「好き勝手してますもんね」
「…迷惑かけないようにしてるつもりなんだけど…」
「僕には大迷惑かけてるでしょ?」
「…ごめん…」
「なんで僕に意地悪したんですか?」
「…いいなぁと思って…」
「…」
「恋も仕事も夢も…一生懸命追いかけてて…キラキラしててさ…羨ましかった…」
「…」
「一番羨ましいのは…自分が撮りたいと思うものがあるって事かな…。僕には…なんにもない…」
「嘘だよ、そんなにすぐに枯れちゃうほど監督の才能って微々たるものだったんですか?そんな人に賞与えるとは思えません。ミンギの映画邪魔してるときの監督、イキイキしてましたよ…」
「…ん…。すごく楽しい…」

初めて監督の柔らかい笑顔を見たように思った

「…監督…。コメディやりたいんじゃないんですか?」
「…」
「でしょ?」
「コメディは…難しいよ…」
「…」
「ふ…。喋りすぎた…もう寝よう…ベッド使いなさい」
「いいです、僕がソファで寝ますから」
「客人をソファに寝かせるわけにはいかないよ」
「じゃ…僕床で寝ますから…」
「…そんな事させるわけには」
「平気です!寝ながら話しましょう!」
「…」

僕と監督は暫く睨みあった
二十秒ほどたって、監督はふっと目線を外してベッドルームに行った
そして布団を持ってきた

「解ったよ…ほら、君がソファを使えよ…僕は床で寝るから」

監督はソファの下に布団を敷きだした

「おやすみ」

監督は布団の上に寝っ転がった
少し間をあけて僕もその横に寝っ転がった

「…。襲うよ!」
「監督は善人ですから襲いません」
「…。ったく…。好きにしたら」
「はい」

天井を見つめて今聞いた話を思い起こしてみた

「監督は…」
「…ん?」
「人に迷惑をかけたくなかった?」
「善人だからね」
「人の期待に答えたかった?」
「いいこだからね」
「そのために自分のやりたい事を後回しにしてきた?」
「そ」
「不満を抑えつけてきた?」
「…いい人だよなぁ…」
「人のために?」
「善人だよなぁ…」
「そういうの…善人じゃないでしょ?」
「…」
「他人の評価を気にしすぎてます」
「…」
「それってつまり、自分を悪く言われたくないって事ですよね?」
「…」
「『人に迷惑かける奴、期待を裏切った奴、自分のやりたい事ばかり優先する奴、不満ばっかり言う奴、自分の事しか考えてない奴』そういう悪評を立てられたくなかったって事ですよね?」
「…」
「それが監督の言う『善人』なんですか?」
「…。訂正するよ…。僕は…僕はさ…」

隣の男が震えている
平静を装いながら話をしようとしている
体中が震えているのが解る
声も震えている

「僕は…エセ善人だからさ…」

監督の語尾に、小さな悲鳴がついていた…
悲鳴が嗚咽にかわり、顔を見てみると辛そうな表情で涙を流していた

「監督…。一人で泣くなよ」
「泣いてない!」
「じゃ、目から出てるのはなんなのさ!」
「これは…水だ!」

偏屈!

「泣きたいときは泣けばいいじゃない!」
「泣いてない!」
「嘘は聞き飽きた。泣いてるのに泣いてないなんて、バカじゃないの?」
「泣いてないんだ!」
「…」
「嬉しいんだ!」
「…」

うれしい?

「君は…人を励ますのが得意だろ?」
「得意ってわけじゃありません…」
「僕を励ましてくれる?」

監督は涙を抑えようともせず、そう言った


Lonely lonely れいんさん

あいつを殴った拳が痛え
昔の俺は殴ったり殴られたり、そんなの日常茶飯事だった
だけど・・今日のはやけに後味悪い

あいつが・・ドンヒが悪いんだ
あいつが急にあんな事するから・・
いつものあいつじゃなかったから・・

むしょうに腹がたった
俺はそこらにあった看板を思い切り蹴飛ばした

参ったな・・
上着も持たずに飛び出しちまって
秋の夜風って結構冷たてぇ
これから俺・・どうしよう・・
のこのこ部屋に戻るわけにもいかねえし
財布も携帯も寮の鍵も、何も持たずに出てきちまった
カッカしてたから、んな事まで頭が回んなかった

いつもならドンヒが探しに来てくれるんだけどよ・・
「どこ行ってたんだ。世話焼かすなよ」なんてな
いつだってブレーキ壊れた車みてえによ、真っすぐに俺んとこにすっ飛んで来やがってよ・・
今日ばかりはそんなわけねえか・・

俺は頭のてっぺんをゴシゴシ撫でつけ鼻をすすった
涙ぐんでたわけじゃねえ
ちっとばっかし肌寒かっただけだ

行くあてもなくフラフラ夜道を歩いてた俺は、ふとあのおっさんを思い出した
そうだ。ジホ監督んとこに行ってみよう
あのおっさん、わけわかんねえとこあるけどよ、俺の事気に入ってくれてるみてえだし
話も聞いてくれるよな
なんてったって、奴と違って大人の包容力ってもんがある
うまくいけばうめえ酒にもありつけるかも

以前、ジホ監督が誰かに自分の家の場所を話しているのを思い出した
俺はうろ覚えの記憶を頼りに捜し歩いた


確か・・ここらあたりだったよな・・
あの、モダンっつーのか?ちょっと洒落た建物がおっさんのマンションか?
ところで何階だったっけ・・
そこまで聞いてなかったぜ・・

ドンヒの奴なら知ってんだろな
みんなの住所きっちりメモしてたもんな
挨拶状だのお礼状だの出す時に必要だからっちってよ
あいつ・・んなとこ妙にマメだからな・・
ちっ!ばっきゃろーー

マンションの灯りをいつまで見上げていたって仕方ないと、俺は来た道をトボトボ引き帰した
丸い小石をドリブルしながらミドルシュートを決めてみたり
『○メートル先工事中』の看板を全然違う場所に移動したり
バス停をスパーリングの相手に見立ててボコボコにもしてやったけど、ちっとも気分は晴れなかった

俺はむしゃくしゃして頭を何度もゴシゴシ撫で付け、道端にツバを吐き捨てた


「そんなところにツバ吐いちゃダメですよ」

ふいに後ろから聞いた声がした
振り向くと緑色のトラックが止まっていた

「ヨンナム兄貴・・」

兄貴は車の窓に片腕を乗せて、人懐こい笑顔で笑いかけた
「ホンピョ君、こんな時間にどうしました?」
「あっ兄貴こそ・・」
「僕は配達の帰りです。今日はお客さんにメンバーが一人足りないって捕まって、なかなか帰してもらえなくてね」

兄貴の顔見た途端、涙が出そうになるくらい嬉しくなった
真っ暗な砂漠に独りぼっちの気分だったから

「今から帰るところです。乗って行きますか?」

捨てる神あれば拾う神あり
地獄に仏
溺れる者は藁をもつかむ

なんでもいいや
とにかく俺は兄貴のトラックに乗り込んだ
荷台には空のミネラル水のボトルがぎっしり積み重なり、カタカタと音をたてていた
座席は硬くてその振動はかなりのもんだ
長く乗ってりゃケツが痛くなりそうだ
バックミラーにぶら下がってる交通安全のお守りが振り子の様に揺れている
乗り心地のいい車とは言えないが、フロントガラスは曇りひとつない
そこらじゅうこ綺麗にしてあって、兄貴が大事に大事に乗っているのがよく解る

「珍しいですね。今日は一人?ドンヒ君は?」
「・・あんな奴、知らねえ」
「・・おや?ケンカでもした?」
「・・・」
「ケンカする程仲がいいってね」
「・・あいつの話はしたくねえ」
兄貴がちらりと俺を見た
俺は方膝立てて頬杖をつき、プイと横向いた

「ホンピョ君、お腹すきませんか?」
「あ・・腹・・減った・・」
「ちょっと寄り道して行きませんか?」

帰りたくない気分の俺はもちろん兄貴の申し出を断るわけない
俺は兄貴に連れられて兄貴の行きつけの屋台に行った


なえいるぎ☆じゅの_2  妄想省家政婦mayoさん

○月○日
僕が手伝いをしている雑貨屋にヨンジンが来た..
僕との夕食の材料を買いに来たって..^o^..
配達をさっさと終わらせて部屋に走って#..帰った..
カンアジが尻尾を振って料理をしているヨンジンの足に纏わりついてた..
僕もうれしいよぉ..カンアジ~~!! ^o^..

ヨンジンはテンジャンチゲ(味噌なべ.)と..ナムルと..ご飯と..あと..い~~いっぱい作った..

チゲは..肉!!.肉!!..肉入りだぁぁ..^o^...

僕はいい物を食べたことがあまりない..仲間と一緒の時もラーメンばっかり..
僕たちは帰りに買ったワイン(凄く安いよ..)で乾杯をした..

チゲにワインって..変なの???...

乾杯の後..ヨンジンと一緒に料理を食べた..凄く美味しかった...
こんなに素敵な夕食は初めてで..鍋の向かいにいるヨンジンをじっと見つめた..
ヨンジンとテヒョンのお見舞いに行くことを約束した..

ヨンジンを家まで送って行こうとしたら..レース仲間(スンヒ...ヒョンヘ..ヒョンウク)が来た..
僕はヨンジンを送って行く道すがら..またち○う出来るかなぁ..っと思ったのにぃ..
でも僕を心配して来てくれた仲間も大事..ヨンジンは気をきかして先に帰った..
仲間と飲みに行った..スンヒの僕を見る目はちょっと怖かった..

「ジュノが好きだから幸せを願ってる...アタシのことは気にしないでいいさ#
 コクチョンマ##..ジュノォ~~ファイティン..」っと言ってくれた..

帰りにヒョンウク(オールイン:テジュン)が僕とヨンジンのことを..
「どんな事も乗り越える自信があるのか?」と念を押した..
僕は「ある!!」っとキッパリ答えた..

○月○日
ヨンジンとテヒョンの見舞いに行った..
2人揃って見舞いに来た僕たちにテヒョンは凄く喜んでくれた..
テヒョンはまだ首が機械で固定されて上を向いたままだけど..
それでも僕等に笑顔を見せてくれた...僕もヨンジンも嬉しかった..

エベレストは無理かも知れないけど..いつか3人で漢拏山(ハルラサン)に登ろう!!と励ました..
テヒョン..リハビリ頑張れ#..

**漢拏山(ハルラサン)
済州島にある韓国最高峰(1950m)..位置的に中文リゾートの北にある


○月○日
大学の復学を決めた..
事故の前に一度突き返された通帳は結局テヒョンに渡していた..
だから僕は学費を稼がなきゃならない..
ヨンジンは窓ふきのバイトは止めてと言った..

「危険だから...あなたの辛さが伝わるの..」っと僕の手を握った..^_^..

窓ふきのバイトは止めよう...最近の僕は素直だ...


○月○日
レース仲間の車を見に行った..スンヒはレース車のエンジン改造をしていた..
整備会社の社長が整備済車両のテスト走行ドラーバーを捜していた..
夜中の高速を走りテスト走行し..エンジンの具合を確かめ報告する仕事だ..
僕は暇だったので試しにやってみた..
5速までチェンジして最高速度をチェックし..ローリングとブレーキ具合のチェックをする..

夜中の1時から3時間走って部屋に帰った..
カンアジがくぅん@っと僕の懐に入ってきた..あったかいよ..カンアジ..


○月○日
社長が僕の仕事ぶりを気に入った..
月に10~20台の車をチェックし..1台あたり5万ウォンもらえる..
学費が貯められると思った僕はテストドライバーの仕事を受けることにした..
でもヨンジンに相談せずに決めてしまった..
夜ヨンジンの帰りを家の前で待ってやっと会えた..

ヨンジンからテスト走行の仕事のお許しが出た..
僕はヨンジンに反対されたらこのバイトを断ろうと思っていた..僕はヨンジンには素直だ..

○月○日
テヒョンの見舞いにひとりで行った..
大学の復学と新しいバイトのことを報告した..

「大学の学費は俺が出すよ..お前に貰った通帳がある..お前に返すよ..」
「あれはお前にやったものだ..いつか..エベレストに行けるまで取っておけよ..」
「僕は被害者だから治療費の心配はないんだ..」

テヒョンはそう言ったけど..僕は学費は自分で稼ぐと言ってテヒョンの手を握った..

やっぱり..ホ○トもやろうかな..
お持ち帰り..ぁ..アフターとも言うんだよね..."そういうの"...
BHCはそれないって...にゅーはーふもどきが言ってたよなぁ...
でもヨンジンに何て言おう..目をつり上げて怒るかな...
内緒でやったら怒るかな...どうしよう...
~~~~~~~~
ジュノは小さくため息をついて日記のノートを閉じた..


Lonely lonely 2 れいんさん

兄貴は店のオヤジに何やら注文してくれた
軽口を叩きあったりして結構親しい仲らしい

「ここのチャンジャは絶品ですよ。真鱈の内臓を秘伝のタレに丹念につけこんでいるんです
タレの秘密を聞きたくて通いつめていましたが、口が堅くてヘソ曲がりでなかなか教えてくれません」

兄貴はそう笑いながら俺のグラスに焼酎を注いでくれた
「これは飲んだ事ありますか?清河という銘柄でアスパラギン酸とクエン酸が含まれています
二日酔いの解消にもいいんですよ」
ゴクリと一口飲んでみる
「ちょっと甘い」
「そうですね。口当たりがよく女性に好まれている酒です」
「俺、普通の焼酎がいいや」

兄貴は店のオヤジに真露を追加してくれた
すぐに緑色の瓶が2・3本、目の前に並んだ
イカとキムチのチヂミをぱくりと頬張りグラスの焼酎をぐいっと飲み干す

「んめえ」
ついでにチャプチェ、タッカルビ、それから兄貴お薦めのチャンジャもつまんでみる
結構いけるぜ

「ところで兄貴、下宿のどこかに『飲んだら乗るな』って貼り紙してなかったか?
書いた本人が飲んでいいのかよ」
「はははそうでした。いや大丈夫です。焼酎にほらキュウリの薄切りを浮かべるとアルコールが早く分解されます
だけど皆には内緒にしてて下さいよ。しめしがつかない」
「へへん」

「ところで・・ドンヒ君、一人で困っていないかな・・ケガしてるのに」
「・・」
両手首にギプスのあいつの困り顔が浮かんだ

「トイレに行くにも不自由してるでしょうね」
「・・」
冷や汗かいて我慢しているあいつが浮かんだ

「それにホンピョ君の事心配してますね、きっと」
熊みたいにうろうろしてるあいつの顔を振り払った

「兄貴っあいつの話はしたくねえって言っただろ?」
「・・よかったらケンカの理由話してみませんか?」
「・・言いたくねえ」
「誰かに聞いてもらいたいって顔に書いてますよ」
「・・」

誰かに話せば解決するのか・・
誰かに話せばラクになるのか・・
俺はぽつりぽつりと話始めた
兄貴は混乱しててまとまりのない俺の話を頷きながら根気強く聞いてくれた

俺なりに一通り話し終えたところで兄貴は俺のグラスに並々と酒を注いだ

「さて・・それ飲んだら帰りましょうか」
「え?」
兄貴のアドバイスなり、何かの言葉を期待していた俺はなんだか拍子抜けした気分だった

「どうして何も言ってくれねえんだ。俺・・自分の気持ちわかんなくてよ・・
あいつとこれからどうしていったらいいのか解んなくてよ・・兄貴・・教えてくれよ」
「・・そういう事は人に教えてもらう事じゃありません。ホンピョ君が自分で考えて答えを出さなきゃいけません
すぐに答えが見つからなくてもいいんですよ。ドンヒ君とよく話し合ってみる事です
話を聞いてホンピョ君の心をほんの少しでも軽くしてあげる・・僕にできるのはそこまでです」
「兄貴・・」

兄貴は店のオヤジに勘定を払い
「ごちそうさま。また来るよ」
そう言って屋台を出た
俺は慌てて皿に残った食い物を口の中に押し込んで兄貴の後を追いかけた

兄貴のトラックに揺られながら俺はずっと考えた
初めて店を訪れた時の事・・
祭で誰もいない店で俺達思いがけず出会ったんだっけ
ホ○トがどんなものなのか知りもしねえで呑気に留守番してたっけ
あの頃はやけにこうるせえ奴だと思ってた
スヒョン狙いで張り合ったりもしてたよな
新人同士助け合おうなんて協定結んだりもしたっけな
いつも一緒にいるうちにだんだんそれが当たり前になっていた
空気みたいになっていた

俺がしゃびしいって言うたびに、ブツブツ言いながらあいつは傍にいてくれた
俺を庇って、俺を信じて
俺を・・俺を・・
・・ごめんな、ドンヒ
だけど俺、わかんねえんだ・・
こんなんじゃ、あいつの顔まともに見れねえ・・

「・・兄貴・・俺・・今日は帰りたくねえ・・」
「え・・?」
「他に行くとこねえんだけどよ・・だけど・・あそこには帰りたくんねえんだ・・」

兄貴はしばらく黙り込んでた
難しい横顔のまま言葉もなく車を走らせていた
ネオンが煌く通りに差し掛かると、兄貴はふいにハンドルを切り細い路地へと入って行った
どこへ行くんだ・・
どこでもいい・・
今のまんまじゃ、どうせあいつのとこには戻れねえ・・


焦り 7 ぴかろん

「…いいですよ…。励ましてあげます…」
「どうやって?」
「…監督…。『青い鳥』撮ってどれぐらい経ちますか?」
「…7年ぐらいかなぁ…」
「じゃ…7年間埋もれさせてた才能を、今から発揮してください」
「…」
「7年間関わってきた作品で得た技術や手法を使って、これから撮りたいと思うものを存分に撮ってください」
「…得たもの?」
「ぼんやりと現場にいたわけじゃないでしょ?楽しかったんでしょ?どうして楽しかったの?いろんな勉強できたんでしょ?」
「…。ああ…。ああそうだね…」
「その『善人面』で得た人脈だってあるでしょ?」
「…あ…うん…」
「今だからできる事ってあると思います」
「…」
「『青い鳥』は、7年前だからできたものでしょ?今は今の監督にしかできないものってあると思います」
「…」
「机上の空論ですか?僕の言ってることは」
「…いや…」
「でしょ?もしこれが…僕の夢に関することならば…確かに机上の空論かもしれないけど、監督にはちゃんとした基盤があるんだもん、やろうと思えばすぐにできるんだもん。僕は羨ましいです…。羨んでちゃいけないんだよな、僕も頑張ってキャリア積み上げて、監督に負けないような作品作ればいいんだもんな…」
「…」
「撮りたいと思うもの、撮ってください」
「けど…失敗したら…」
「失敗?」
「…許されないだろ?スタッフに迷惑がかかるもの…」
「監督…まだスタッフと一緒に動こうとしてるの?」
「…」
「今、休んでるんでしょ?だったら今のうちに好きなモン撮っちゃえばいいじゃない…」
「…」
「練習練習」
「…練習…」
「ウォニさんだっているしさ、お蔵入りのヤツ、リメイクしちゃえば?」
「…でも…一人でやって失敗したら…」
「監督の言う失敗ってなんなんですか?」
「え…それは…」

監督は口を結んで宙を見つめていた
僕はその横顔を見つめていた

「はは…そっか…。僕、今までの7年間、ずっと失敗し続けてたんだった…。僕のやりたいと思ったこと失敗してたんだった…。そっか…一人なら責任は全部僕が被ればいいんだ…。興行的に失敗しても、僕の中で成功すれば…いいんだ…そっか…」

監督を覆っていた膜が、監督から発せられる熱でぴりぴりと干からびて落ちていく…その瞬間、僕はそんな風に感じた

「…さんきゅ…さすがはエリザベス・シューだな…よく喋るエリザベス・シューだ…」

干からびた膜の残滓をつけながら、監督自身の皮膚が輝いているように見えた
少し赤みを帯びたほの白い光りが滲み出ている…僕はオーラというものをこの目で確かに見たと…そう思った

「…監督…」
「ん?」
「どうしていつも、カメラやらビデオやら抱えてたんですか?」
「…んー…」
「僕ね…不思議に思ったんです。素人がカメラ持って撮影するでしょ?被写体が人間だと、被写体自身の力で感情を現してくれるから、いい顔した瞬間にシャッターなり録画なりしてたら、それなりにいい写真やいい映像が撮れる…。でも、風景だとそうはいかない…。自分の目で見たとき、ああここが美しいと思ってカメラを構えるでしょ?ファインダーを覗いて写真を撮る…出来上がった写真は平坦な景色でなんの感動もない…。けど、プロが撮るとそうじゃない。
感動と感情が伝わる…。それは…単に技術的なものなんでしょうか…」
「…カメラって…機械じゃない?」
「はい」
「…写真も映像も…なんていうのか…切り取られた空間だよね…。撮影者が意図的に切り取った部分…。『この電柱はいらない、この家の洗濯物は入れたくない』って斬り捨てながら撮ってるんだよね…」
「はい」
「僕は…カメラのプロじゃないからさ…よく解んないんだ…、彼らがどうやってその図を選択して、切り取った図の中に感情を込めてるのか…」
「…」

「カメラマンは、冷静だよね…。機械を通して物を見ると、僕の場合は感情が動かなくなる…素人はみんなそうでしょ?プロは…できるのかな…」
「…」
「ごめん…答えになってないな…。解んない、カメラワークは難しいと思う…。監督の注文に、みんなよくきっちり応えるなぁと思う…」
「…感情を動かしたくなかった?」
「え?」
「僕を…僕達をずっと撮ってたのは…そういう理由もあった?」
「…記録のためだよ…。君がいなくなると寂しくなるから…」
「ふぅん…」
「さ、もう寝よう…寝ないと明日、きついぞ」
「僕は若いから平気です」
「寝させてくれないと、僕、明日空港まで送れない…」
「解りました。寝ましょう。おやすみなさい」

僕達は目を瞑って眠る努力をした
五分ぐらい経った頃、監督がまた口を開いた

「チョンマン…」
「…寝ないんですか?」
「…その…。抱きしめてもいいかな…」
「いっ?」
「あの…。変な意味じゃなくてさ…」

監督は闇の中で恥かしそうに頭を掻いていた
いつもの、調子こいてなんだかんだちょっかいかけてくる監督じゃなかった

「じゃ、どういう意味?」
「…感謝の気持ち…」
「…なら…いいですよ…」
「…そ?じゃ…失礼して…」

おずおずと僕の方に体を寄せる監督が可愛らしい

「あの…ちょっと起き上がってよ…」
「ん?」
「寝たまんまだと…いやらしいじゃない…」
「…。ぷふっ」

本当はシャイなんだな…なんて思った
僕は上体を起こして監督に笑いかけた
監督は、柔らかい笑みを浮かべて僕を抱きしめた

「ありがとう…。頑張って勉強してきてね。」
「監督…」
「土産、忘れないでね、ダースベーダーとヨーダの…」
「陶器のフィギュアね?高いの?」
「しらない…友達が持ってたの…欲しいのあれ…可愛いから…」
「…。見つけたらね…」
「見つかんなかったら500ドル返してね」
「ケチ」
「ケチだもん…映画の資金にするんだもん…」
「くふふ…」
「…チョンマン…」
「はい」
「チニさんとも、うまくやれよ」
「…」
「僕みたいになるなよな…」
「監督…」

監督がぎゅっと僕を抱きしめた…
その時ようやく気づいた

「監督…。奥さんの事、好きなんでしょ…。今でも好きなんでしょ…」
「…」
「好きだから…別れるんですか?」
「…そ…かも…」

僕は、監督という人がとても愛おしくなった
ダースベーダーのように特殊な鎧を全身に纏ってたんだ…好きな人に対してまで…

「監督…人が良すぎます…」
「だって僕…善人だもん…」
「…ホントに…困った善人です…」

監督は微笑みながら俯いておやすみと言い、横になった
僕は、弱いのか強いのか、悪いのか良いのかわからないその生身のダースベーダーを見下ろし、それから体をぴったりとくっつけてやった

「なによっ!襲われたいの?」
「僕が襲ってるんだよ監督…」
「…え…困る…」
「…」
「…」
「ふふふっはははっ襲いませんよ…あははっ」
「…なんだ…よかった…ちょっと残念かな…」
「じゃ、襲いましょうか?」
「あっやめて!お願い!」
「くふふ…ははは」

なんだか緊張している監督をからかうように、僕は監督の腕に絡み付いて寝た

「かんとくぅ」
「…はい…」
「ちゃんと起こしてよね…間に合うように…送ってってよ…ね…」
「…はい…」

監督の心の中の炎が、監督の肌から伝わってくる
頑張ってね監督
僕も頑張るから
心も体も温かくて僕はすぐに眠くなった


テプンとチェリム3 びょんきちさん

思いがけないチェリムからの手作りディナーのお誘い。
不安と期待でドキドキしてる。あいつどんな格好で料理してるんだろう?
夕方までにはまだ時間があるけど、どうしよう。なんだか落ち着かない。

そうだ!なんか手土産でも買いに行こう。でも、手土産って何がいいんだろう?
花束?なんか違う。ワイン?種類が良くわかんない。 ケーキ?誕生日じゃないし。
フルーツ盛り合わせ?お見舞いみたいだし。そうだ、焼酎にしよう。焼酎でいいや。

それから、胃薬と下痢止め持って行こう。腹こわすといけないから。念のため・・
ああ、やっぱり心配だ。あいつ一人で本当に料理なんか作れるんだろうか?
ケガしたりしてないだろうか?火事なんか起こしてないだろうか?

やっぱり早く行こう。でも、突然早く行ったりしたら、チェリム怒るかな・・
チェリムは俺に合鍵をくれない。もうすぐ結婚するっていうのにさ・・
留守中に他人に入られるのが嫌なんだってさ。俺、他人じゃないじゃん!

「テプンだけじゃないの。親にだって鍵は渡さない。誰だって見られたくないものがあるでしょ!」
「脱ぎっぱなしの洋服やストッキングや下着、食べ散らかしたお弁当やラーメンのなべ、洗わずに流しに置きっぱなしの茶わん、そんなもの見せたくないもん」
「俺は気にしないよ。部屋が汚ければ掃除しとくし、汚れた下着は洗濯しとくし、流しの茶わんは洗っとくし」
「ダメ!そういうの嫌なの。テプンにはそういうことさせたくない!」
そういって、プンプン怒ってたチェリム。一体なにが気にいらないんだろう?

「俺達結婚するんだからさ、お互いのダメなところ見せあったっていいじゃんか。チェリムができないところは俺がやるし、俺ができないところはチェリムがやればいい」
「私、女として最低なの。テジにも言われた。だから努力したいと思ってる。だからしばらくテプンと会えない」
そんな訳のわからない理由で、俺はしばらくチェリムと会うことができなかった。

あいつが女として最低なら、俺はどうなんだ。俺こそ男として最低だよ。
馬鹿だし、単純だし、鈍感だし、手に職ないし、いつも空回りしてるし・・
ユンジュに会った時だって、妹だってこと全然気づかずに辛い思いをさせてしまった。
テジだって、いつもドジばかりの俺を見て、情けない父親だと思ってるだろうな。

男として、長男として、親として、夫として、俺は100点満点で何点くらいだろう。
本当にチェリムは俺なんかでいいんだろうか。俺はチェリムを幸せにできるんだろうか。
ずいぶんいろいろ考えた。いろんなことやってみた。 俺なりに努力してみたんだ。
だから、今日あいつに会ったら話したいこと、報告したいことがいっぱいある。
やっぱり早めに行こう。怒られてもいいからさ。あいつの怒った顔、可愛いからさ。


まずは酒屋に行って焼酎を買おう。俺、ワインとか全然わからないからさ。
眞露チャミスル山査春(サンサチュン)を買った。健康にもいいらしいし。


時間つぶしにブラブラとウィンドウショッピングをした。
洋服とか、靴とか、バッグとか、女物ってよくわかんねえや。

俺さ、店員に「いらっしゃいませ」って言われると弱いんだ。とたんに無口になっちまう。
「なにをお探しですか?」「恋人へのプレゼントですか?」「おいくつぐらいの方ですか?」
そう矢継ぎ早に言うなよ。周りに聞こえたら恥ずかしいじゃないか。

この間、ジュエリーショップに行ったときは、ホントあせったよな~
「婚約指輪でございますか?」そんなでっかい声で言うなよ。
「サイズはいくつでしょうか?」「サイズ?そんなもんあったのか(゜0゜;)/」

まあいいや、とにかくチェリムのところに行こう。
チェリムの部屋のチャイムを鳴らす。「ピンポーンピンポーン」
「誰?」「俺、テプン」「ずいぶん早いじゃないの」
バタバタと音がして、玄関のドアが開く。「ひえ~」思わずのけぞる俺。
「チェリム、おまえどうしたんだ。なんていうかっこしてるんだ!」


Invitation オリーさん

ドンジュンさんを見送ってベイカールー・ラインでパディントン駅に出た
ここで拾われたためその名がついた仔ぐまはあまりにも有名だ
思い直して駅から近いパブに入り、ギネスを飲んだ
ドンジュンさんと飲めればよかったのかもしれない
一杯のつもりだったが、結局もう一杯おかわりした
少しふらつく頭で駅に戻り、列車に乗り込んだ
オックスフォードまで約1時間、僕はシートに埋もれた
ずっと目を閉じていたが眠れなかった

宿に戻ると午前に近く、家の明かりは消えていた
僕は預かっているスペア・キーで鍵を開け静かに中に入った
パソコンを立ち上げ、しばらく迷った末に彼にメールを打った
『予定が延びました。あと少しこっちで仕事です。
スケジュールが決まったらまた連絡します』
送信
メッセージと一緒に飛んでいきたい

会いたい・・会いたい・・会いたい・・

ベッドに寝転び天を仰いだ
やっぱりドンジュンさんの視線が痛かった
『ギョンビンのおかげだよ・・』
あの時は何でも思い通りにいくと思っていた
それができると思っていた
ついこの間のことだ
わかったような口をきいてしまった
少しまどろんだところでメールが来た
ドンジュンさん・・何?
『きっと出口は見つかる。今度会ったらハグしてチュウだ』
僕の出口はどこ?
『何かあったらすぐ相談しろよ』
窓越しにそう言ってくれたんだよね
ありがとう・・
今度いつ会える?
出口を見つけなくては・・
疲れた頭で教授の資料を読み返した
資料に添付されている写真が静かに僕を見つめている

霧がかかる森の中で迷子になった
一緒にいたはずの彼がいない
必死で探し回った
叫びながら走った
どこにもいない
息が切れてもう走れない
膝をついて座り込んだ
突然肩を掴まれた
「どうした?」
「どこにいたの?ずっと探したのに」
僕は彼に抱きついた
「ずっとそばにいたよ。なぜ気づかなかった」
「手を離さないでって言ったのに・・」
「ミンが勝手に先に行ったんじゃないか」
「もう絶対に手を離さないで」
「馬鹿だな、泣かなくていいよ」
彼は僕を抱きしめた
「さあ、もう行こう」
「うん」
彼は僕の腰に手を回すと顔を覗き込んで笑った
僕たちは霧の中を歩き始めた
「少し霧がはれてきたね」
「ああ、これで帰れる」
「うん」
かすかに日の光が差し込んできて、辺りが明るくなった
「でもこんな風にこのままふたりで歩くのもいいよね」
僕は彼の肩にもたれかかった
「その前に答をくれないか、ギョンビン君」
僕は凍りついた
体をあずけた相手はいつの間にか教授になっていた
自分の叫び声で目が覚めた
朝になっていた

僕は階下に降りて朝食を取った
食べながら奥さんに話した
「滞在を伸ばしてもかまいませんか」
「大歓迎よ。お仕事終わらないの?」
「ええ、ちょっと・・」
「観光シーズンは過ぎてるから他に予約はないの。いつまででもいてちょうだい」
「ありがとうございます」
「こちらこそ、お土産買ってきてもらって嬉しかったわ。
お友達からも頂いちゃって。よろしく伝えてね」
奥さんは僕達の土産をとても気に入ってくれて上機嫌だった

食事を終えて部屋に戻り着替えた
鏡の中の自分を見つめる
僕は負けない
誰も僕を傷つけることはできない
大きく深呼吸した
下に降りて、奥さんに行ってきますと挨拶した
いってらっしゃいと笑顔を返されたとたん、上着の中の携帯が鳴った
「ギョンビンです」
『私だ、予定を変えよう。自宅へ来てくれ』
教授からだった
「自宅?」
『大学より北にある。住所を言おう。それとも迎えに行こうか』
「タクシーで行きます。場所を教えてください」
『大学の北の方だ。A4144を上がってB4495の交差点から4本め
オズバードンロード17番だ』
「オズバートンロード17番ですね」
『そうだ』
「これから出ます」
そう返事をしてから僕はしばらく携帯を握りしめていた


替え歌 「鳥よ」 ロージーさん

翼があれば 今すぐに
遥か東に飛んでゆく

あの日の笑顔 胸に抱いて
一人たたずむ 風の中

空を行く鳥よ この想い
どうか あの人へ 届けてよ

愛しい人に めぐり逢える
その日信じて 飛び続ける

夜明けの霧の 消える頃に
見知らぬ今日が 目を覚ます

鳥よ ああ鳥よ 負けないで
どうぞ その旅が 終わるまで

誰も自分の 帰る胸を
求め飛び立つ 風を超えて

鳥よ ああ鳥よ 負けないで
どうぞ その旅が 終わるまで

愛しい人の 胸に帰る
その日信じて 飛び続ける

(夏川りみ『鳥よ』)


テプンとチェリム4 びょんきちさん

「テプンったら来るの早すぎるよ。まだ料理できあがってないし、お化粧もしてないのにさ」
「そ、そんなことより、なんなんだよ。そのかっこ?」
「あっ、これ?これは完全防備スタイル!」
「完全防備?その水泳の帽子も?」

「スイミングキャップは髪の毛が落ちないように被ってるの。前にテジにお料理を習った時、スープの中に髪の毛が入ってて怒られたのよ」
「それで水泳帽なのか?」
「ヘアバンド、カチューシャ、三角巾、シャワーキャップetc、いろいろ試したけどこれが一番いいのよね」
「で、そのゴーグルは?」
「たまねぎ刻むとき涙が出るでしょ。それで、最初はスイミングゴーグルしてたんだけど、鼻から吸っちゃってダメなのよ。スキーのゴーグルでもダメ。それで、このダイビング用のゴーグルにしたの」

「で、その花柄の割烹着は?」
「私、料理してるとお醤油とかのシミとかあちこちにつけちゃうのよ。それに、天ぷらあげる時の油ハネも怖いから全身防備のために割烹着にしたの」
「でも、そんなのどこに売ってるんだ?」
「パッカさんにもらった」
「パッカって、俺の友達のパッカ?」
「うん、テプンのために料理作るって言ったら・・『が、が、がんばれよ、こ、この、か、割烹着やるから』って」
「あいつ、俺よりもセンスないかも・・」

本当はちょっと期待してた。いろいろ想像してたんだ。 チェリムのお料理姿・・
真っ白なフリルのエプロンとか、かっこいいギャルソンエプロンとかね。
そんな期待は完全に吹き飛ばされた。目の前の花柄割烹着のじっと見てみる。

花柄だからわかりにくいけど、あちこちにシミがついている。
チェリムは、右手にはおたま、左手はなべつかみを持って仁王立ちになっていた。
「今なにか作ってたの?」
「うん、カムジャタン作ってるの。じゃがいもホクホクだよ!」
「いつのまにそんなの作れるようになったの?」
「えへへ、ないしょ」

よく見るとチェリムの右手の甲と左手の人さし指に絆創膏が貼ってある。
「どうしたの。絆創膏?」
「私ドジだからさ、右手は天ぷらの時の火傷、左手は野菜と一緒に刻んじゃった!」
「だ、大丈夫なのか?」

俺はチェリムの水泳帽とゴーグルをはずした。
すっぴんのチェリムが子供のような笑顔で俺を見つめる。
「俺のために、俺のために・・うっうっうっ・・」
「どうしたのテプン?泣いてるの?」
「チェリム愛してる!結婚しよう今すぐ!」

涙があふれて止まらなかった。
こんな俺のために満身創痍で料理を作っているチェリム・・
この女が愛おしい。髪をなでた。頬をなでた。きつく抱きしめて口づけた。
おたまとなべつかみを持ったままのチェリムを玄関の壁に押し付けた。
そして、長く激しいキスを交わした。









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